ウメ 花見の対象としてサクラより長い歴史を持ち、観賞価値の高い花と良質の実をつける。
花見の対象としてサクラより長い歴史を持つ「ウメ」
中国の江南地方を原産とするウメ(梅)は落葉小高木で、薬用として朝鮮半島を経由して日本に渡ってきたといわれていますが、もともと九州に自生があったとする説もあります。
ウメの正確な渡来時期はまだわかっていませんが、花見の対象として「サクラ」より長い歴史を持ち、奈良時代以前に「花」といえばウメを表したほどで、『万葉集』ではサクラの歌の倍以上の100首を超えるウメの歌が詠まれています。
ウメという名前の由来には、「梅」の中国音「メイ」からとする説や朝鮮名の「マイ」からとする説、未熟なウメの実を黒焼きにして作る薬「烏梅(ウバイ)」からとする説があります。また、ウメの別名は「ニオイザクラ」、「好文木(コウブンボク)」、「雪中君子(セッチュウクンシ)」、「春告草(ハルツゲグサ)」、「香栄草(カバエグサ)」など多数あり、「好文木」については、かつて晋(中国)の武帝が学問を怠ると花が枯れたという故事に由来しています。
ウメは寿命が長く、古木となっても力強く芽吹くことや、肌寒い早春に開花することなどから慶事の象徴とされ「マツ」、「タケ」とともに「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」、あるいは「キク」、「ラン」、「タケ」とともに「四君子(しくんし)」とも呼ばれています。ウメは中国においては、ロウバイ、スイセン、ツバキとともに「雪中の四花(せっちゅうのしか)」として尊ばれています。
ロウバイ ロウ細工のような黄色い花。蘭にも似た香り高い花で、雪中の四花。
ニホンズイセン 原産地は地中海沿岸で、シンプルな美しさ。雪の中に咲く花。
観賞価値の高い花と良質の実をつける「ウメ」
ウメの開花時期は1月下旬~3月で、葉に先立って咲きます。ウメの花にはほとんど柄はなく、花径は約2.5cmほどで、整った五弁の花びらの一重咲きのほか、八重咲き種もあります。ウメの花の色には白、赤、ピンクとそれらの混合種がありますが、香りの高い白花に最も高い価値があるとされています。
ウメは観賞価値の高い花を咲かせる「花ウメ」と薬や食品加工用に向く良質の実をつける「実ウメ」に分けられ、目的の違いにより剪定方法や肥培管理など栽培方法が異なります。ウメは単一品種では実のなりが悪いため、より多く収穫するためには数種類を一緒に植える必要があります。
ウメの実が熟すのは6月頃で、シソの葉で漬けた梅干しや梅酒を目的とした「実ウメ」の産地は、和歌山、群馬、徳島が知られています。実ウメの代表的な品種は「白加賀(しろかが)」と「小梅」で、実が黄熟しない「青梅(おうめ)」も有名です。ウメは江戸時代には工業用の酸を採取するため、幕府によって植栽が奨励されていました。
ウメの木の直径は最大で60cmほどになり、樹齢を重ねると樹皮は縦に粗く裂けます。樹皮は暗灰色ですが材は暖色系で、目が細かくて硬く、狂いが少ないことから木材として流通し、数珠、ソロバン玉、茶道具、根付などの工芸品に使われます。
和風の庭にもよく合う「ウメ」
ウメの品種は300種類とも500種類ともいわれていますが、花ウメはさらに木の性質や花の特徴などから「性(しょう)」というグループに分けたものを基本として、原種に近い「野梅性」、小枝と萼が緑色をした「青軸性」、古枝の髄まで赤い「紅梅性」、大輪の花が咲き、秋以降に枝が紫がかる「豊後性」、アンズとの交配によって作られた「アンズ性」、枝がしだれる「枝垂れ性」のように分類されます。
野梅性では、花粉が多く自家結実し、花も実も楽しめる八重の薄ピンク花の「見驚(けんきょう)」、紅白で咲き分けるだけでなく、花自体も絞り咲きになるものがある八重咲きの咲き分け種の「思いの儘(おもいのまま)」、一重の白花の「白加賀」があり、青軸性では、白花で中輪八重の早咲きの「緑萼(りょくがく)」、紅梅性では、一重の紅花の「紅千鳥(べにちどり)」、豊後性では、一重の白花の「豊後(ぶんご)」や八重の紅花の「緋の袴(ひのはかま)」、枝垂れ性では、やや早咲きの白花で中輪八重咲きの「白滝枝垂(しらたきしだれ)」があります。
ウメより早い時期に黄色くて香りの高い花を咲かせる「ロウバイ(蠟梅)」は、早咲きのウメと開花時期が重なることや、多くの梅園で一緒に植栽されていることから、黄色い花が咲くウメのように誤解されがちですが、ウメとは分類上は異なる樹木です。
ウメは花のほかにも気品のある香り、幹の形、枝ぶりと観賞対象は多く、花つきは「サクラ」や「モモ」に比べると少ないですが、開花期はかなり落ち着いた印象で、和風の庭にもよく合います。
ヤエザクラ 花びらがたくさんあるサクラの総称。咲いている期間が長い。